目次
- Q 交通事故で被害者が死亡してしまいました。どのような犯罪になりますか?
- Q 飲酒運転中に死亡事故を起こし逃走しました。どんな犯罪になりますか?
- Q 死亡事故を起こしてしまった場合、どの程度の刑罰になりますか?
- Q 死亡事故を起こしてしまうと、必ず刑務所に入ることになるのでしょうか?
- Q 死亡事故で捕まってしまいました。不起訴になることは可能ですか?
- Q 自動車の死亡事故で示談をするべきでしょうか?
- Q 示談は弁護士に任せてしまうべきですか?一緒に行くべきですか?
- Q 死亡事故の示談金はどの程度必要ですか?
- Q 死亡事故を起こすと職場を解雇されてしまうのでしょうか?
- Q 死亡事故で実刑判決を受けると、刑務所はどうなるのでしょうか?
- Q 死亡事故を起こしてしまった場合、運転免許はどうなりますか?
- Q 死亡事故で免許取消しになりそうです。何か対応はできますか?
Q 交通事故で被害者が死亡してしまいました。どのような犯罪になりますか?
自動車事故の処罰については、自動車運転死傷行為処罰法に定めがあります。一般的な運転上の不注意によって事故を起こしてしまった場合は、過失運転致死罪(5条)に当たり、より危険な状態での運転中に事故を起こしてしまった場合は、危険運転致死罪(2条)に当たります。
危険運転となる類型は列挙されており、具体的には、①酩酊運転、②制御困難な高速度での運転、③未熟な技能での運転、④通行妨害する目的での運転、⑤信号無視運転、⑥通行禁止道路の運転があります。
Q 飲酒運転中に死亡事故を起こし逃走しました。どんな犯罪になりますか?
飲酒運転の発覚を免れる目的で逃走をするなどの行為は、自動車運転死傷行為処罰法上の発覚免脱罪(4条)に当たります。
これは、アルコールが抜けるまで逃走した後に出頭した人には危険運転致死罪が適用できないため、すぐに出頭した人より有利になってしまう、という逃げ得の問題を解消するために設けられた規定です。
また、逃走行為は同時に道路交通法上の救護義務(72条1項前段)違反にも該当します。
Q 死亡事故を起こしてしまった場合、どの程度の刑罰になりますか?
裁判で言い渡される刑罰の内容・程度を量刑といいます。量刑は、事故の態様や被害者の数、事故後の対応などの事情で変動するため、科される刑には大きな幅があります。
弊所で取り扱ったケースでは、おおよそ1年~3年程度の懲役・禁錮、執行猶予が付く場合は3年~5年程度の執行猶予になることが多かったです。執行猶予になれば、直ちに刑務所に行かなくてもよいので、裁判が終わればそのまま自宅に帰ることが可能です。
もっとも、被害者が飲酒の上で自転車に乗り、車道を横断運転していたようなケースでは罰金刑で終わることもありますし、被害者が多いケースや飲酒運転・ひき逃げが同時に成立するようなケースでは、初犯でも3年を超える実刑判決が出ることもあります。
Q 死亡事故を起こしてしまうと、必ず刑務所に入ることになるのでしょうか?
必ずしも刑務所に入るわけではありません。刑が3年以下の懲役・禁錮のケースでは、執行猶予が付く場合があります。執行猶予が付くと、執行猶予期間中に罪を犯して刑に処せられるなどの事情がない限り、期間経過をもって刑の言渡しが失効するので、刑務所に入ることにはなりません。
死亡事故の場合は、過失の態様や過失割合次第ですが、対人無制限の任意保険で遺族に対して十分な賠償が予定されていることを前提に、執行猶予になる可能性が十分にあります。もちろん、初犯でも実刑になるケースもあります。
Q 死亡事故で捕まってしまいました。不起訴になることは可能ですか?
死亡事故で逮捕されたとしても、事故の加害者でなかった、または加害者であることの十分な証拠がないという場合には、裁判で有罪の立証ができないため不起訴になります。これを嫌疑なしまたは嫌疑不十分といいます。
死亡事故の場合、捜査の結果、過失(不注意な運転)の事実を裏付けるだけの十分な証拠が集まらず、嫌疑不十分として不起訴になるケースも一定数あります。不起訴になれば、刑事裁判にならないので、有罪判決を受けることも、前科が付くこともないです。
Q 自動車の死亡事故で示談をするべきでしょうか?
示談は、トラブルに関する当事者間の債権債務関係を清算するものですが、自動車事故の場合、通常は保険会社が被害者(遺族)への賠償を行います。そのため、任意保険に加入しているケースでは、刑事事件の弁護士が損害賠償を清算する意味での示談を行うことは少ないです。
もっとも、被害者のご家族から許し(宥恕)を得て、減刑の嘆願書などの作成に協力してもらうことができれば、裁判で執行猶予を得られる可能性が高くなります。その観点から、刑事事件の弁護士が、被害者遺族と会い、話し合いを進めることはよくあります。
過失の割合的に加害者側に不利な死亡事故でも、遺族の許しがあれば執行猶予が付き刑務所に入らないで済む可能性が高くなります。特に、路面脇の歩道や横断歩道上を交通ルールに従って歩いていた歩行者をはねてしまったケースでは、初犯でも実刑(刑務所行き)になる可能性が高いため、遺族と真摯に向き合い、謝罪と賠償を十分に尽くすことが大切です。
Q 示談は弁護士に任せてしまうべきですか?一緒に行くべきですか?
交通事故の示談では、被害者側の加害者に対する宥恕が非常に大きな意味を持ちます。裁判で被害者側の処罰意思がないことを示せれば、執行猶予付きの判決が得られる可能性は高くなります。
また、もし裁判中に減刑の嘆願書へのサインがもらえなかったとしても、被害者側に対して誠意をもって謝罪し宥恕を得る努力をした事実は、後の刑事裁判でも一定の評価を受けられます。
そのため、弁護士に示談を頼む場合でも、死亡事故のケースでは、被害者側遺族の承諾があることを前提に、加害者である当事者自身も一緒になって謝罪や示談交渉をすることがあります。
Q 死亡事故の示談金はどの程度必要ですか?
示談は当事者間の合意によるトラブルの解決ですので、示談金も当事者の合意で決められるものであって、決められた金額はありません。
ただ、自動車の死亡事故の場合、実際に生じた人的・物的な損害は自賠責保険や任意保険で賠償されるため、保険に入っている限り示談金としてこれらを支払うということはありません。
もっとも、保険金が出るまでには時間がかかりますし、経済的・精神的負担を受けた被害者側の方に対する誠意を示すことは大切です。そこで、保険金が出るまでの一時金として、その期間の支出に充ててもらうための一定額を受け取ってもらうこともあります。
一時金の額は具体的な事情によって様々ですが、弁護士を立てれば、これまでの弁護経験に基づいて適正な額の一時金を提示することが可能です。また、一時金を支払ったことは弁護士が証拠化するため、のちの刑事手続で加害者側に有利な証拠として使用することができます。
Q 死亡事故を起こすと職場を解雇されてしまうのでしょうか?
必ず解雇されてしまうというわけではなく、職場の就業規則や取り扱いにより異なります。もっとも、死亡事故を起こして実刑判決を受けてしまうと、事実上職場を辞めざるを得ません。そこで、被害者のご家族と示談を成立させるなどして、執行猶予付きの判決を獲得することが重要です。
また、執行猶予を得ても、職場によっては解雇の対象とすることがありますが、その場合には、弁護士から解雇しないよう求める意見書を職場に提出することなどが考えられます。死亡事故を起こしてしまったとしても、解雇を防ぐことは十分可能です。
Q 死亡事故で実刑判決を受けると、刑務所はどうなるのでしょうか?
交通事故で懲役刑や禁固刑を受けた場合、交通刑務所と言われる種類の刑務所に収容されるのが通常です。千葉の市原刑務所や兵庫の加古川刑務所がこれに該当します。
一般に被収容者の犯罪傾向が進んでおらず再犯率も低いことから、交通刑務所では、一般の刑務所より自由度の高い開放的処遇がとられています。
また、刑務所内での生活上の特徴としては、一般の刑務所に比べて交通安全に関する指導・教育が強化されている点が挙げられます。
Q 死亡事故を起こしてしまった場合、運転免許はどうなりますか?
行政処分の前歴がない場合、違反点数6点以上で免許停止、15点以上で免許取消しになります。そして、死亡事故の違反点数は20点ですから、前歴がなかったとしても免許が取り消されてしまうことになります。
ちなみに、違反点数20点の場合の欠格期間(本免許の再取得が認められない期間)は1年です。
Q 死亡事故で免許取消しになりそうです。何か対応はできますか?
免許の取消しは行政処分(不利益処分)であり、処分を行うためには聴聞という手続を経る必要があります(行政手続法13条1項1号ロ)。これは、行政処分に関する意見や証拠書類などを提出し、行政庁に処分の適否を判断してもらう手続です。
聴聞に際し弁護士が意見書を作成・提出するなどの活動を行うことで、免許の取消しそのものを防げる可能性があります。当該事故の刑事手続きを担当した弁護士であれば、事件の全体像を把握しているので、書類の作成・提出の作業をスムーズに済ませることができます。書類の作成・提出に加えて、弁護士が聴聞の場に代理人として同席することも可能です。
また、もし違法な行政処分がなされてしまった場合には、処分の取消訴訟(行政事件訴訟法3条2項)によって、取消しの効果を消滅させることができる可能性があります。