目次
懲役刑の意味や懲役を避けるための方策について、刑事弁護士が解説します。
懲役とは、懲役刑の意味
懲役の定義
懲役とは、有罪判決が確定した受刑者を、刑務所に拘置(こうち)して、所定の労役を行わせる刑罰をいいます。
「懲役」という言葉と「実刑」という言葉は、同じように使われることが多いです。法律業界においては、「執行猶予が付かない懲役刑または禁固刑の有罪判決」を「実刑判決」と呼んでいます。「有罪判決に執行猶予が付かなかった場合」を「実刑になった」と表現したりもします。
禁固との違いは?
懲役と似た刑罰として、禁固刑があります(正式には「禁錮」ですが、ここでは便宜上「禁固」と書きます)。
禁固刑は、懲役刑と内容が似ています。どちらにも共通するのは、受刑者を刑務所に拘置することです。つまり、受刑者は刑務所から自由には出られなくなり、居住と移動の自由が制限されます。
両者で異なるのは、懲役刑は受刑者に所定の刑務作業を行わせるのに対し、禁固刑は刑務作業などをさせない(ただ拘置するだけ)という点にあります。ただ、実際は、本人の希望を考慮した上で、作業を行わせることも多いようです。
ただの過失による人身事故(自動車運転過失傷害罪)や死亡事故(自動車運転過失致死罪)の場合は、禁固刑が言い渡されます。飲酒運転やひき逃げなど、道路交通法違反の容疑が合わさった場合は、懲役刑が言い渡されます。
「懲役刑と禁固刑ではどちらの方が重い刑罰か?」という質問をよく受けますが、懲役刑の方が重い刑罰にあたります。
執行猶予付きの懲役刑とは?
執行猶予とは、判決で懲役刑・禁固刑が言い渡されても、一定の期間は執行されず、その間に罪を犯さなければ、刑の言い渡しがなかったことになる(言い渡された刑に服さなくてよくなる)という制度です。
執行猶予付き判決と実刑判決との違いは、執行猶予付き判決の場合は、猶予期間中は刑務所に行かずに社会の中で生活できるという点です。実刑判決の場合は、判決の確定した後、社会とは隔離されて刑務所の中で生活しながら刑に服することになります。
もっとも、刑務所に行かず社会の中で生活できるとはいっても、前科が付かないわけではありません。執行猶予付き判決は、有罪判決でもあります。有罪である以上、前科は付いてしまいます。
では、どれくらいの求刑まで執行猶予が付くのでしょうか?まず、執行猶予は、言い渡される懲役・禁錮の期間が3年以下である必要があります。また、求刑は、実際に想定される判決よりも重めの刑が請求される傾向があります。
したがって、検察官が求刑で3年以下を求めている場合には、執行猶予が付いても構わないという意思が含まれていることがしばしばあります。他方、検察官の求刑が3年を超える場合には、執行猶予を付けないでほしいというメッセージが込められているといえます。
執行猶予の期間は、1年以上5年以下の範囲で決められます。判決が確定した日から起算します。猶予期間は、あなたが再犯をしないということを確認できるために必要な期間という観点から定められます。そのため、猶予期間は、必ずしも言い渡される刑の長さと比例するものではありません。
執行猶予になった場合には、猶予期間中保護観察に付されることがあります。また、再度の執行猶予となった場合には、必ず保護観察に付されます。保護観察とは、あなたが刑務所での処遇によらなくても更生できると思われる場合に、保護観察官と保護司から補導援護・指導監督を受けるというものです。
保護観察に付せられる場合には、順守すべき事項が決められます。この遵守事項を守らず、その情状が重いときは、猶予期間中であっても執行猶予が取り消されることがあります。また、執行猶予に併せて保護観察が付けられていた場合には、猶予期間中にさらに罪を犯しても、再度の執行猶予になることはできなくなります。
無期懲役と有期懲役
無期懲役と有期懲役の違いは?
懲役刑は、有期懲役と無期懲役とに分かれます。
有期懲役の場合は、裁判官が判決言い渡しの時に、1か月以上20年以下の間で、刑の期間を決めます。有期懲役の最長期間は20年です。最短期間は1か月です。
無期懲役の場合は、もともとは刑に期間を限らないので、残りの人生をずっと刑務所で過ごすことになるはずです。ただし、以下に述べるように、仮釈放で出所することがあります。
仮釈放の意味
仮釈放とは、受刑者が改悛(かいしゅん)している場合に、一定の刑期を過ぎた段階で仮に釈放する制度です。
「改悛」の具体的な内容について、実務上の解釈によると、受刑者が反省悔悟し、更生の意欲があり、再び犯罪をするおそれがなく、なおかつ、保護観察に付することが更生のために相当だと認められることをいうとされています。
ただし、社会の感情が仮釈放を是認するとは認められないときは、仮釈放できないとされています。
仮釈放が可能になる一定の期間は、無期懲役のときは10年間、有期懲役のときは判決で言い渡された期間の3分の1とされています。
懲役を避けるためには
懲役になるかどうかで考慮されるポイント
刑事裁判の判決で、懲役刑が言い渡され、執行猶予が付いていない場合は、直ちに刑務所に行かなければなりません。懲役刑を避けるためには、刑事裁判において、どのポイントが重視されて懲役刑が言い渡されるのかを把握する必要があります。
刑事裁判においては、被告人(加害者)の責任は、今回の行為の悪質さを軸に据えて判断されます。したがって、まずポイントとなるのは、「どれだけ悪質な行為をしたか」です。
また、被告人(加害者)の反社会性や再犯の可能性を判断するうえで、加害者に前科があるか、あるとすればどのような内容の前科か、今回の犯罪までどのくらいの間隔が空いているか、なども考慮されます。したがって、次にポイントとなるのは、「前科の有無・内容・時期」です。
さらに、被害者がいる犯罪の場合には、被害がどれだけ回復しているかに関して、被害者がどのように感じているかということも重要な意味をもちます。したがって、「被害感情」も重要なポイントとなります。
そのほかにも、再犯の可能性を判断するうえで、加害者が再犯防止の取り組みをどれだけしているかも考慮されます。
懲役刑にならないためにできること
以上を踏まえて、懲役実刑を避けるために、また懲役刑を少しでも短くするために、被告人としては何ができるでしょうか。
大きく分けると、ポイントは3つです。①罪を認めて反省していること、②被害者に対しる慰謝の措置が講じられていること、③更生の意欲が顕著であり再犯の可能性がないこと、の3つが大切になってきます。
①罪を認めて反省していることに関しては、刑事裁判の冒頭手続で容疑を認め、被告人質問でも反省の情を示すことが大切です。捜査段階は容疑を否認または黙秘していたとしても、裁判上でしっかりと罪と向き合えば問題ありません。
②として、被害者がいる犯罪では、被害の処罰感情を和らげることが何より重要です。その意味で、被害者と示談を交わし、被害者から許してもらっていることは、懲役を避ける上で大きな意味があります。
③再犯の可能性に関しては、今回犯罪をしてしまった原因をきちんと分析し、その原因を克服する手段を講じているかがチェックされます。同居する親族や会社の上司に情状証人として出廷してもらうことも有効です。
刑事裁判において有利な判断を得るためには、自分の刑事弁護人とよい協力関係を築くことが大切です。刑事裁判で、裁判官に対して、あなたの良い情状を証明するのは、すべて弁護士の活動によるからです。
懲役に関するよくある質問
懲役はいつから始まる?開始の時期はいつ?
言い渡された懲役刑は、裁判が確定した日から起算するのが原則です。ただし、例外的に、拘禁されていない日数は、裁判の確定後であっても、懲役刑の刑期に算入しません。
言い換えると、身柄拘束を受けている状態で懲役刑を言い渡された場合には、裁判の確定した日から懲役刑が始まります。これに対して、保釈中であるなどにより拘禁されていない状態で懲役刑を言い渡された場合には、裁判の確定した日ではなく、刑事施設に収容された日から懲役刑の刑期は起算されます。
では、どのような状態になれば、裁判が確定したといえるのでしょうか?裁判の確定とは、裁判がもはや通常の上訴やそれに準じる不服申し立てによって争うことのできない状態になったときをいいます。具体的には、上訴期間が経過すること、上訴を放棄することまたは取り下げること等によって、裁判がもはや争えない状態になります。
懲役はいつ終わる?終了の時期はいつ?
懲役刑を受けた場合、いつ出所できるでしょうか?
まず、判決で言い渡された刑期をすべて終えた場合は、その終了の日の翌日に刑務所から釈放されます。刑務所の入り口で釈放され、そのまま所持金を使って、自宅や家族の所に帰ることになります。
仮釈放によって出所できることもあります(仮出所ともいいます)。仮釈放は、懲役刑・禁固刑の受刑者に改悛(かいしゅん)の情がある場合に、無期懲役のときは10年を経過した後、また有期懲役のときは刑期の3分の1を経過した後に、それぞれ可能になります。
仮釈放は、これらの期間の経過により直ちに仮釈放されるというわけではなく、通例では、刑事施設の長の申し出を受け、地方更生保護委員会が決定することにより、仮釈放されることになります。
懲役が終わった後はどうなる?
懲役が終わった後は、刑務所から出所します。出所後の就職等の生計については、あなた自身で立てる必要があります。そのために、刑務所で懲役に服している間に、技術を身に付けたり、資格を得たりすることができます。
出所後は、国内旅行は自由です。ただし、仮釈放によって仮出所した場合は、残った刑期の間、保護観察に付されます。そのため、旅行の際には保護観察官や保護司に指示を仰ぐ必要があるので、完全に自由に旅行できるわけではありません。
出所後の海外旅行も、基本的に自由です。ただ、ビザの申請が必要な場合には、過去の犯罪歴を記入する必要があります。その関係で、通常よりもビザが下りるのが遅くなったり、ビザが下りなかったりする可能性があります。
老後の生活については、出所後の日常生活と同様、自分で生計を立てる必要があります。
罰金か懲役かは被疑者の方で選べる?
罰金を受けるか、懲役を受けるかは、被疑者の方では選べません。被告人に対する求刑を選択するのは、検察官の専権です。また、被告人に対する刑を選択し判決を言い渡すのは、裁判官の専権です。被疑者・被告人は、これに服するしかありません。
もっとも、判決の内容に納得がいかない場合は、上訴することができます。第一審の裁判官から間違った刑を言い渡されたと考える場合は、高等裁判所に控訴して、刑の内容の変更を求めることができます(ただし、その主張が認められるかは別問題です)。
懲役から保釈できる?
懲役刑を受けている受刑者を保釈で釈放することはできません。保釈とは、刑事裁判を受けている被告人を留置場や拘置所から釈放するための制度で、受刑者を刑務所から釈放するための制度ではないからです。いくら多額の保釈金を積んだとしても、受刑者を懲役中の刑務所から保釈することができません。