目次
- 執行猶予の意味、効果
- 執行猶予の意味
- 執行猶予がつかなかったら
- 執行猶予の期間を経過した場合の効果
- 執行猶予の期間中にまた罪を犯したらどうなるか
- 執行猶予になる場合、ならない場合
- 「執行猶予」の要件
- 執行猶予がもともと無理な場合
- 再度の執行猶予とは
- 「再度の執行猶予」の要件
- よくある執行猶予の質問
- 執行猶予期間の最短と最長は?
- 執行猶予期間が短くなることはある?
- 執行猶予付きの判決でも前科になる?
- 執行猶予のカウントは、いつから始まって、いつ終わる?
- 執行猶予のことを「弁当」という?どういう意味?
- 執行猶予期間中は海外旅行に行けない?
- 執行猶予期間中は選挙に行けない?
- 執行猶予期間中はどういう生活をすればよい?何か制限はある?
- よくある刑事相談例
執行猶予の意味や執行猶予制度について、刑事弁護士が解説します。
執行猶予の意味、効果
執行猶予の意味
刑事弁護士をしていると、日常生活の中でも「執行猶予って何?」という質問をよく受けます。
執行猶予とは、有罪の場合に、一定の期間にわたって、刑を執行しないということです。
刑が直ちには執行されない結果、懲役刑の猶予期間中は、刑務所に行かなくて済みます。今までどおり、社会の中で生活することができるということです。
執行猶予判決が言い渡されると、被告人の勾留が解かれます。保釈が認められず、判決の日まで勾留されていたとしても、自宅に帰ることができます。法廷でそのまま釈放されることもありますが、いったん警察署や拘置所まで戻って手続を済ませてから解放されることもあり、ケースバイケースです。
執行猶予がつかなかったら
では、判決に執行猶予がつかなかった場合は、どうなるでしょうか?
懲役刑や禁錮刑の判決で、執行猶予が付かなかった場合(実刑判決の場合)は、そのまま刑務所に入らなければなりません。
勾留がない状態で実刑判決を受けた場合は、後日、当局から召喚があり、これに応じなければなりません。判決まで保釈されていた場合でも、新たに保釈が認められない限り、拘置所に収監されてしまいます。
執行猶予の期間を経過した場合の効果
執行猶予の期間中、新たに犯罪を犯して執行猶予を取り消されるということがないまま無事に過ごすと、刑の言い渡しは効力を失います。その結果、前の刑は受けなくていいことになります。
そのため、その後に新たに犯罪を行っても、前の有罪判決による刑は加算されません。また、前に有罪判決を受けたことによる資格制限も受けなくなります。
執行猶予の期間中にまた罪を犯したらどうなるか
では、執行猶予の期間中にまた罪を犯すと、どうなるでしょうか?
新たな犯罪について禁錮・懲役刑になる場合は、上で説明した「再度の執行猶予」がつかない限り、前の執行猶予は必ず取り消されて、前に受けるはずだった禁錮・懲役刑と今回の禁錮・懲役刑の刑期が合計された分、刑務所に行かなければなりません。
新たな犯罪について罰金になる場合は、前の執行猶予が取り消される可能性があります。ただ、執行猶予が取り消されなかった場合は、新たな罪について罰金刑を支払うだけで大丈夫です。直ちに刑務所に行く必要はありません。
この場合、前の刑についての執行猶予は依然として続きます。そのため、執行猶予の残りの期間を無事に過ごせば、前の刑は受けなくて済むようになります。
執行猶予になる場合、ならない場合
「執行猶予」の要件
「執行猶予」になるためには、以下の①から③の要件をすべて満たす必要があります。
- ① 言い渡される刑が3年以下の懲役・禁錮か、または50万円以下の罰金であること
- ② 酌むべき情状があること
- ③ 前に禁錮・懲役刑になったことがないか、あるとしてもその刑の執行終了(執行の免除も含む)から5年間をあらたに禁錮・懲役刑に処せられることなく過ごしたこと
要件①との関係では、執行猶予になるためには、言い渡される刑が3年以下である必要があります。つまり、執行猶予判決のマックス(上限)は、「懲役3年執行猶予◎年」というものです。「懲役4年執行猶予◎年」や「懲役5年執行猶予◎年」という判決は、法律上あり得ません。
要件③との関係では、執行猶予になるためには、刑務所に入ったことがないか、あるとしても刑務所から出所して5年以上経過している必要があります。ですから、刑務所から出所した直後にまた犯罪をしてしまった場合は、執行猶予が付きません。
執行猶予がもともと無理な場合
- ① 言い渡される刑が3年を超える懲役・禁錮である場合
- ② 酌むべき情状がない場合
- ③ 過去5年の間に、禁錮・懲役刑に処せられたことがある場合
再度の執行猶予とは
再度の執行猶予とは、執行猶予中に、新たに犯罪を行うなどして有罪判決を言い渡される場合に、新たに言い渡される刑について、もう一度その執行を猶予することをいいます。
「再度の執行猶予」の要件
執行猶予中の犯罪は、厳しく処罰されます。特に、同種の犯罪を繰り返した場合は、古い懲役刑の刑期と新しい懲役刑の刑期を合わせた期間、刑務所に収監されるのが通常です。再度の執行猶予を簡単に認めると、社会が成り立たないからです。
「再度の執行猶予」が認められるためには、以下の①から③の厳しい要件をすべて満たす必要があります。
- ① 今回言い渡される刑が1年以下の懲役・禁錮であること
- ② 情状に特に酌量すべきものがあること
- ③ 前回の執行猶予判決に保護観察が付され、その期間内に今回の罪を犯した場合でないこと
私たちの事務所では、東京と大阪の事務所で、窃盗や万引きに関して、再度の執行猶予判決を獲得した実績があります。ご依頼者は、無事に社会復帰を果たし、その後は平穏に暮らしています。
よくある執行猶予の質問
執行猶予期間の最短と最長は?
執行猶予期間の最短は1年、最長は5年です。刑法25条は「裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間、その執行を猶予することができる。」と規定します。
実務上は3年から5年の範囲内で、執行猶予期間が定められることが多いです。短期の懲役刑が言い渡される場合は、執行猶予期間が2年のケースもあります。
執行猶予期間が短くなることはある?
一度定められた執行猶予の期間が、後日、短くなることはありません。
執行猶予付きの判決でも前科になる?
執行猶予付きの判決でも前科になります。執行猶予とは、単に有罪判決に基づく刑の執行を一定期間猶予する制度で、有罪判決を受けた履歴である前科とは別問題だからです。執行猶予付きの判決であっても、有罪判決を受けたことに変わりはありません。
執行猶予のカウントは、いつから始まって、いつ終わる?
2010年10月1日に懲役1年執行猶予3年の判決が言い渡され、上訴期間が経過して判決が確定したと仮定します。この場合、執行猶予はいつからカウントが始まり、いつ終わるでしょうか?
まず執行猶予期間の起算日・起算点は、裁判が確定した日です。判決書にも「この裁判が確定した日から※年間その懲役刑の執行を猶予する」と書いてあります。本件では判決が確定する原因は上訴期間の経過です。上訴期間は判決言い渡しの翌日から14日間なので、本件の上訴期間の満期は10月15日です。その翌日(16日)に判決は確定します。したがって、本件の執行猶予期間は2010年10月16日からカウントが始まります。
次に、本件の猶予期間の期限は、起算日から3年後の2013年10月15日です。翌日の10月16日になると猶予期間満了です。ただし、猶予期間満了の通知は特に届きません。したがって、残り期間は自分で数えている必要があるのです。
執行猶予のことを「弁当」という?どういう意味?
「弁当」とは、執行猶予を表すスラングです。執行猶予中の者を「弁当持ち」、古い事件の執行猶予が切れてから新しい事件の有罪判決を受けられるようにすることを「弁当切り」などと表現したりします。
執行猶予期間中は海外旅行に行けない?
海外旅行に行けるか否かは、渡航先の国との関係が問題になるので、一概には回答できません。海外渡航をする予定がある場合は、渡航先の国の大使館等に問い合わせを入れ、ビザの発行などに関して質問してみましょう。パスポートの入手自体は制限されることはありませんが、ビザの発行は難しい場合があります。
世間では、「執行猶予中は逃亡のおそれがあるから海外に行けない。」などの噂もありますが、そんなことはありません。執行猶予と逃亡は無関係です。ただし、保護観察が付いている場合は、関係者への事前連絡が必要になります。
執行猶予期間中は選挙に行けない?
原則として、執行猶予期間中でも選挙権は制限されません。自由に選挙に行くことができます。ただし、公職にある間に犯した収賄罪の刑の執行猶予中の者、および選挙に関する犯罪の刑の執行猶予中の者には、選挙権は認められません。
執行猶予期間中はどういう生活をすればよい?何か制限はある?
執行猶予中は、普通に生活していれば大丈夫です。保護観察が付いていない限り、保釈で釈放中の場合と異なり、特に制限はありません。海外に逃亡したからといって、執行猶予が取り消されることもありません。
引っ越し、転居、転職も自由です。捜査当局から監視もされていません。就職活動、アルバイトの就活・面接も自由に応募することができます。国家資格の勉強を進め、これを受験することも可能です。
日常生活の過ごし方で注意を要するのは、車の運転です。運転免許の取得や車の運転はできますが、交通事故を起こすと執行猶予が取り消される可能性があります。車の運転は、できるだけ行わない方が無難です。